渾身猫パンチ

書きたいときだけ息を吹き返す間欠泉

大河ドラマ「真田丸」第18回「上洛」

  • 少しずつ少しずつ、父上の心が折られてゆく回だった。前回までの道筋や予告編で予想されてはいたけれど、むしろ予告はミスリードを誘っていて違う展開があるかも?なんて期待もしたのに、きわめて順当につらい回になりました。嗚呼。
  • 前回までで、上洛を渋り続ける昌幸がすでに中央の時流から取り残されていることはこれでもかと示されていたわけで、今日はその帰結を確認するだけのお話である。それだけのお話をもう、こんなに念を入れて描写してくれちゃって、ほんと容赦ないよね嗜虐的よねこのドラマ。ほめています。
  • 敗北感を大きく演出したひとつ、毛皮の羽織。敗北感と羽織るものといえば、ここで12年前の「新選組!」の羽織を思い出すわけである。組織のなかでは一番文化に明るいとされ、自負もしていた男が音頭を取ってあつらえた浅葱色のだんだらの羽織。その男が上を行く教養人に論戦で負け、とどめに浅葱色のだんだらの野暮ったさを腐される。あれも相当つらい場面だったが、でも、ストレートな言い争いのすえストレートにけなされるぶんだけ、まだ後味は悪くなかったのかも、と今日思い至った。
  • 三成(とイノセントな且元さん)から毛皮をないがしろにされるのはいわば、だんだらをストレートにけなされるのと同等で、腹は立つけど「相手の器に負けた」とは思わないですむ。ところが秀吉はその毛皮を着て出てくるのだ。一見、田舎の品物とあなどらず喜んで受け取ってみせる大物にも見える。でも大坂城の絢爛たる大広間で、その毛皮だけ明らかに浮いてる。しかも秀吉は身につけたそれについてなにひとつ言及しない。言葉では白とも黒とも言わないまま、真田の自慢の献上物がどれだけ場違いか自分の姿で示すのだ。12年かけて嫌がらせもずいぶん高度になったこと。ほめています。
  • それともそう受け取った私がひねくれているだけで、あれはすなおに「人たらし秀吉がもらい物を利用してぽんと懐に飛び込んできた」と見るべき場面なのか。でもなー、やらしいと思うのは、毛皮の下の秀吉の衣装がいつもより地味なんだ。それでよけいに毛皮が浮いて見える。よく着てるキンキラの上に羽織ったらもうちょっとまとまった見栄えになって、それならくれた人の懐に飛び込むって解釈ができた気もするんだけど。
  • そもそも当ドラマの秀吉は人たらしなのか?という疑問も私にはあります。人たらしってやっぱもう少し愛すべき面が目立つ人間なんじゃないだろうか。騙されてるかもしれないけど、こいつになら騙されてもいいかな……と思わせちゃうような。この秀吉さんだとなんか、騙されてるかもしれないけどもう他に道がない、って思わせる感じで……
  • 少し心温まる話もしよう。真田兄弟ひさびさの再会。生まれてくるのが遅くて戦乱の世に間に合わなかったかも、とやや寂しげに笑う兄ちゃん、父があれだし弟もわりとあれだから目立たないけど、人並みには野心を持っていたのね。戦乱の世が終わってからが奴の出番だ、とかつて父に評されたことを知ったらどう思うのだろうか。
  • 予告編で出ていた父上の「わしはどこで間違った」に、「最初から全部」って返すギャグがあってそれはそれで大笑いしたんだけども、マジレスするならやっぱり兄ちゃんと声を揃えて「間違えてなどおりませぬ!」って答えたいですよ。父上はその場その場で最良の道を必死に選んできたんだもの。生来の山っ気が選択に多少影響したとしても。……多少っていうか多大だとしても。
  • 本能寺の変後の「織田の家臣として戦うべき」以来、じつはひっそりつねに正解を出してたとも言われる信幸。正解なのに聞く耳持たれず愚痴ったりもしてた兄ちゃんが、迷うことなく発した「間違えてなどおりませぬ!」に泣きました。正解じゃなくても間違えてないってこと、あるんだよ。
  • それにしても今回にかぎってはドラマの悪役みたいな家康の高笑いの憎々しさよ。家康のくせに! ほっぺたむにーってするぞ!